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月明りの下で

SilverRainのキャラクター+αによるブログです。知らない方、なりきりが苦手な方は戻ることをお勧めします。

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異世界への旅路。

ある日のこと。
フランチェスカの元に、遠音からの連絡が届いた。
「おいしいカレー屋さんがあるから、今度一緒に行きましょうです」
些か嫌な予感がしたものの、退屈が紛らわせるならばそれでいい。
了承の返事を出すと、いつ行くかなどの相談をし、その日を終えた。

そして当日、東京都世田谷区某所。
どうやら、おいしいカレー屋というのは本当らしく、なかなか盛況しているようだ。
店の外には、それなりの長さの行列ができている。
一度店内に入り、記名してから待つこと数十分。
店員に呼ばれて店内に入ると、スパイス独特の香りが辺りを覆っていた。

店内の品書きなどを見るに、どうやらここはスープカレーの店らしい。
それなりの値段はするものの、種類は比較的豊富だった。
ふと壁の張り紙に目をやると、見るからに辛そうな文字色で何かが書いてある。
どうやら、この店では辛さの調節にランクがあるようだ。
ひとまずフランチェスカは、遠音の勧めもあり下から4番目のものを選ぶ。

そして、幾許かの間の後、店員が注文を取りに来る。
フランチェスカが決めたとおりに注文をしたところで、遠音はひとつ、店員に尋ねた。
「ここに書いてあるよりも、辛いものはありますですか?」
その言葉を聞くと、目を丸くしながらも、更に上に位置する4つを教えてくれた。
その中から、遠音は最も上のものを選択し、注文する。
店員は微かに笑みを湛えながら、
「そこに書いてあるものでは満足できませんでしたか」
と、通いなれた客に向けるような言葉をくれた。

…しかし、それは間違いだ。
…否、予想することもないだろうから、間違いですらない。
なぜなら、遠音もフランチェスカも…この店に来るのは初めてなのだから。

店員がそこまでの言葉を向けてくるとは…果たして、どんなものが運ばれてくるのか。
しばし雑談を楽しみつつ、それが運ばれてくるのを待つ。

しばらくして。
まず運ばれてきたのはフランチェスカが注文したもの。
スープカレーと言うだけあって、やや色は薄めなものの、いい香りが漂っている。
一方。
ほぼ同時に運ばれてきた遠音が注文したものは、明らかに雰囲気が違っていた。
…最もわかりやすいのは色だろうか。
赤い。明らかに赤い。先にきたものと比べて、どう見ても赤い。
更に、スパイスと思われるものの分量の桁が違う。どう見ても多い。
どちらも、フランチェスカが注文したものの4~5倍近いクオリティを誇っている。
色はその分赤く、スパイスはその分多く、何より、周囲の空気が異色。

ひとまず味見とばかりに、フランチェスカは自分の注文したものを口へと運ぶ。
「…っ!?」
辛い。この時点で辛い。思わず咳込む辛さだ。
あまり辛いものが得意ではないとはいえ、それなりの耐性はあるつもりだった。
しかし辛い。軽い頭痛を感じ、喉が灼ける。
ライスを食べ、水を飲む。それでようやく落ち着いた。

「…なんだ、これは…。洒落になっていないぞ」
少し目頭に涙を浮かべながら、未だ収まらない咳を殺す。
そうしている間にも、遠音は自分の分のカレーを口へと運んでいた。

「これくらいなら、前食べたもののほうが厳しいような気がしますです」
…冗談じゃない。
この段階で軽く記憶が跳びかけていたが、遠音が注文したものは、フランチェスカが注文したものから見て7段階ほど上のランクだったはずだ。
…何か悪い夢でも見ているんじゃないだろうか。
そう考えている間にも、少しずつ辛味が全身を駆け巡っていく。
しかし、注文したからには食べきらねばならぬ。覚悟を決め、食べ進めていく。

おおよそ20分ほど経っただろうか。
未だに半分ほどは器に残るスープカレー。
さすがの遠音も、継続的に食べていると厳しくなってきたようだ。
「…くっく、そ、そのくらいは余裕なのではなかったのかね…?」
悪態をついてみるが、変わらぬ辛さの前ではそれも空元気か。
「…食べ進めている間に、何だか体のほうが嫌がりはじめたのです…」
そう、この時点で半ば舌は麻痺し、辛さへの耐性は付いてきたかに思えた。
しかし、断続的に投じられる辛味…即ち痛みに、体のほうが耐え切れなくなってくる。
…そう、これは異世界への旅路。
きっと、これを超えたことで未知の世界への扉が開くのだと…!

そして、更に10分後。
フランチェスカが注文したものを味見してみることにした遠音は、驚くべきことを口にした。
「…全然辛くないのです。これはただのスープですです」
まずい。これ以上は本当にまずい。味ではなく、精神や肉体がまずい。
「…な、何を言っているんだね君は…。味覚が狂ってしまったんじゃないのか?」

と、そんな会話をしながらも、何とか食べ終える二人。
最後にデザートを頼むことにした。
遠音は、フルーツジュースのようなものを。
フランチェスカは、アイスクリームとまた別のジュースを。
甘く冷たいデザートに癒され、この日の異世界への旅は終わりを告げた。

…その帰り道。
「次は、もうちょっと低いランクのでいいのです」
…どうやらまた来るつもりらしい。
もしも、次にまた呼ばれるのであれば…。
次はランク付けはしないようにしようと、そう誓うフランチェスカだった。

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